エンジニアの英語力

TL; DR

  • どれだけ努力しても"ネイティブ並"は無理なので諦めが肝心
  • エンジニアは英語ができなくても話を聞いてもらえるので「伝える意思」と「分かったか分かってないかを絶対に曖昧にしない」こと

 

謝辞

このエントリは弊Android Projectのビルド待ち時間を使って書かれています。Android Studioさんに感謝します。

ビルド待ち時間にブログを書かれたくない場合は弊社は僕に全部盛りiMacを買ってください。

 

前口上

英語力に関するエントリは盛り上がりやすく荒れやすい気がするんだけど、それはやっぱりみんな英語は出来たほうがいいに決まってるしさりとて英語を身につけるのは難しいよねってことが分かってるからだと思う。

 

僕はエンジニアの中では比較的英語が得意な部類に入ると思うけど、それでも全然充分だとは思わない。ただ、これでやっていけないか?というと全然そんなことはないので、一番重要なのはエンジニアには何が期待されているのかというのを改めて認識しなおすことで、手持ちの英語力でも幸せに生きていこうではないかということが言いたい。

 

僕について

僕はもう10年以上プログラマをしている。職種はソフトウェアエンジニアである。

旅行を除いて1週間以上海外にいたことがなく、外資系企業での勤務歴もない。

英語力はTOEIC最高点が890。ここはサバを読んでTOEIC900マンとしてくれ、頼む。英検も準1級を持っている。

ここまで書いて「英語強者だ。解散!」とか「出た、ただの自虐風自慢」というのは簡単だけど、このエントリには僕がTOEIC900に至るまでの道のりと、実はそれは不要であることの両方を記した。良かったら読み進めて欲しい。

 

エンジニアの英語力について

まず、一番最初にエンジニアに必要な英語力について書いておきたい。

エンジニアにとって英語力はあるに越したことはないが、なくても別に死なない、ソフトクリームのあのカラフルなつぶつぶチョコレートぐらいのもんだということだ。

 

で、最初に言い切ってしまうと、エンジニアはエンジニアリングができるというただ一点においてすでに価値があるので、エンジニアが英語ができなくても相手は辛抱強くコミュニケーションを取ってくれるという事実だ。

弊社にはイギリス人、アメリカ人、ニュージーランド人といった英語を母国語とする同僚が多数いるが

  1. エンジニア同士の場合、コードは英語より雄弁なコミュニケーション手段となる
  2. 相手が非エンジニアの場合も、作るのはこっちなので無碍にはしてこない

ことが分かっている。

 

従って僕はエンジニアは

  1. 英語の一次情報(ライブラリやRFC等)をいかなる手段を用いても構わないので読めること
  2. 相手とどうしても英語を話す必要があるときはいかなる手段を用いても構わないのでゴールについて合意できること

が達成できればなんだって構わないと考える。

いかなる手段を用いても構わないので、前者はGoogle翻訳を使えばいいし、後者は同僚に通訳を頼んでもいい。僕はふざけてなどいない。エンジニアとのコミュニケーションミスで本来とは違うものを作ってしまう損失は通訳のそれよりゼロ2桁ぐらい大きい。

 

肝心なのは、君にコミュニケーションの意思があることと、いま訊かれており合意しなければならないことが分かったかどうか確実にすることだ。

相手が日本人ですら「ちょっとそこ仕様がフワフワしててわかんないっす」とか確認するじゃないですか。相手が違う言語を話してたら尚更だ。「よくわかんないけどウンって言ってきた」って、文字で書くとアホなの?と思うけど実際には多くの人がやっちゃう。

 

「わかんなかった」

「あ、そこはわかった、後半わかんない」

「こういう理解でいい?」

 

ってしつこく確認すること。これは英語力の問題ではなくコミュニケーション意思の問題だ。そしてそれが何より大事だと思う。

 

僕は海外企業で働いたことがないけど、実は海外企業に内定をもらった*1ことがあって、その時の面接で「英語で困る」なんてことはまったくなかった。

もちろん流暢にはしゃべれるわけないんだけど、別に単語の羅列でも相手が求めているアルゴリズムをホワイトボードにスラスラ書けることの方が肝心だ。

 

僕は周りのものすごいエンジニアたちが英語ができないという思い込みで海外に挑戦しない例を見てきて「なんてラッキーなんだ!エンジニアの価値はエンジニアリング力にあるのに、そんなことで諦めてくれるなんて!ライバルが減った!」ぐらいに思っている。

このエントリで書いちゃったけど、このエントリを読んで海外企業受けたよありがとうと言ってもらえる方がもっと嬉しいかな。

 

どうやって実践的な英語力を身につけるか

とはいえ英語は出来たほうが有利だ。ここでは僕がいかにしてTOEIC900の英語力を身に着けたか紹介する。

僕のアプローチはただひとつ。「理解できる英語をひたすら繰り返す」だ。

 

僕はスピードラーニングの完全否定者である。英語は聞き流すだけでは絶対にできるようにならないが持論だ。想像してみてよ、なんでも良い、例えばアラビア語の音声を10年間毎日聞いたとして、アラビア語が理解できるようになると思うか?

 

僕が考える良い英語の教材は次の条件を備えていることだ。

  • 英語母国語話者が英語で解説する
  • 内容はゆっくり平易で、辞書なしで9割理解できる
  • 1レッスンに2〜3個わからない単語が出てくる

英語母国語話者による英語の解説

これが非常に肝要で、英語を読み上げて日本語で解説するタイプの教材は日本語の解説を聞いた時点で満足しちゃって記憶に残らない。

英語を英語で解説することがどれだけ大事かというと、これは知らない単語を別の平易な説明で言い換えることができるということだ。これはいざ自分が直接知らない単語をどうにか相手に説明しないといけない場面で役に立つ。

 

内容はゆっくり平易で辞書なしで理解できる

これはある程度意味がわかった状態で「単語の字面」と「ネイティブな音」とを結びつける必要があることを意味する。実は知っている単語が、ネイティブの発音ではそれと認識できなかったという経験はしばしばすることになる。

単語と音が結びついてくると、今度は未知の単語を「聞いただけで」だいたいのつづりが想像できるようになる。あるいは、けったいなつづりでも辞書に向かって音声入力で聴いたとおりしゃべりかけるとスペルを教えてくれるようになる。

 

いきなりABC Newsを聞くようなトレーニングは速すぎて取りこぼしの方が多いと個人的に考える。平易でゆっくり過ぎると中級者は「ちょっとこれは簡単過ぎるのでは…」と不安になるかも知れない。

人間は9割わかると前後から内容を類推することができるのでほとんど理解できたような気になるが、逆に言うと1割分かっていないということは各レッスンで1割ずつ未知の内容を習得できるということだ。

 

僕のオススメはESLPodである。

サイトが分かりにくいのが難点だが、僕は15ドル/月の有料会員で、Select Englishというコースから15本好きなプログラムをDLできるので「Daily English」という、日常でよくあるシチュエーションの会話を通じて単語や表現を学ぶコースから10本、「Cultural English」という、アメリカの歴史や偉人といったアメリカの文化を学ぶコースから5本それぞれ毎月DLしてスマホに入れてウォーキングしながら聴いている。

 

僕はこのサービスが有料化する前からのユーザで、実に7年間このレッスンを聴いている。人間、7年間も続けたら大抵のことはできるようになるのだ。

月15本で1本20分ぐらいなので、毎日聴いていると10日ぐらいでやりきってしまう。その場合は繰り返し聞く。何度でも繰り返し聞く。そうすることで記憶が強固になる。イディオムが勝手に口をついて出るようになる。

僕がこれまでにした英語のトレーニングにはESLPodただひとつだけだ。他に何一つしていない。それだけでTOEIC900取れる。TOEICなんてTOEICの点数を上げるための対策すらしていない。そんなことは無意味だ。TOEICの点を上げることそれ自体には何の価値もない。

 

シャドウィングと英語思考

前述の英語リスニングに慣れてくると、今度はそれに合わせて気になる表現や単語をブツブツとシャドウィングしてみよう。聞くのと話すのはやっぱり違う。聞こえたのと同じように言えるようになるまで何回でもブツブツしゃべる。英語には日本語にない音がいくつもあるので、最初はうまく口が動かない。冗談みたいだけど口が攣ったりする。練習あるのみである。

 

ゆっくりしゃべってくれるのに合わせて自分でも言ってみるのを繰り返していると、対面で英語話者とスピーキングのトレーニングをしていないのに不思議としゃべれるようになる。とにかく重要なのは

  • 言葉のシャワー(理解できるものじゃないとダメよ!)を浴びまくって、イディオムが脳内でスッと出てくるようになる
  • 何回もシャドウィングして口が慣れてくる

これを繰り返すとしゃべるほうも結構イケるようになってくる。

 

僕のオススメは日常生活で「これ英語で何ていうかな」と妄想しながら生きるトレーニングだ。普段からそういうことを考えていると、いざ英語話者を前にしたときに自然な流れで言いたいことが言える。

「まずは日本語で考えてそれを英訳する」ステージから「脳内で英語で直接考える」ステージに移行できればしめたものだ。あとは少しずつ教材の難易度を上げていくだけだ。グッドラック!!!

 

TOEIC900について

さて、これまで散々言ってきたTOEIC900ってどのぐらいの英語力なんだろうかと思った時に、自分の例で言うと

  1. 英語母国語話者と知的な会話は無理
  2. ジョークを言い合うなんてとても不可能
  3. ニュースや新聞も満足に視聴できない

レベルである。

 

たとえば、ABC NewsやBBC NewsはPodcastで無料で視聴できるのでいますぐ聴いてみて欲しい。TOEIC900程度ではたぶん7割ぐらいしか分からない。

新聞も、例えばFinancial Timesを買ってみて欲しい。辞書なしに1コラム満足に読むことができないと思う。

TOEIC900ってこれっぽっちの英語力なのだ。英語ができるという物差しにしては短すぎる。

 

ニュース、新聞は日本でもそうだと思うけど、格式張った知的な単語や言い回しが頻出する。そしてその新聞やニュースの内容を議論するようなビジネスマンが、知的な単語を使ってないわけがないのである。同僚のイギリス人同士が政策について議論しているような場では、まるっきり何をしゃべっているのかチンプンカンプンだ。

同僚の英語母国語話者が久しぶりに同郷の同僚と話していて「いや〜、久しぶりに"Intellectual(=知的)"な会話をしたよ^^」って彼に言ってるのを聞いてちょっと傷ついたものだ。

 

ただ、ことエンジニアと仕事をする上では、彼らはちゃんと「第2外国語としての英語話者」に向けて平易な単語や表現をわざわざ選んでしゃべってくれるし、こちらが分からなくてもある程度譲歩してもらえる。これは僥倖だ。我々エンジニアは恵まれた世界線にいるのだ。

 

まとめ

最後にまとめると、やっぱり英語は極めようとするには難しすぎるのである程度妥協しないとキリがないということかな。

英語ってたぶんエンジニアにとって目的ではなくて手段であるはずで、目的というのはエンジニアとして幸せに仕事したいとかそういうことだと思うから、手段にこだわりすぎるあまり目的がおろそかになるのはやっぱり不幸なことだと思うので、エンジニアリングの方にフォーカスしていきましょうということです。

 

最後とっ散らかっちまった…

ビルドしつつちょこちょこ書いたのでつながりも悪いかもしれないけどまあいいや。じゃあの。

*1:この会社はビザがおりず、半年待ってついに諦めることになった。この悔しさとその時の経験はいつか別エントリにする。